【夏の夜に読みたい】背筋がゾクっとする小説たち

木々の間の夜の月

夏の夜って、少しだけ特別だと思うんです。
昼の喧騒が静まって、風の音や虫の声だけが響いてくる。
そんな夜にひとり、本を開く。ページをめくるたび、物語の世界に少しずつ沈んでいくような感覚。

とくに読みたくなるのが、“ちょっとゾクっとする話”。
読んだあとに誰かの視線を感じたり、遠くの物音に敏感になったり。
怖さと心地よさのあいだを行き来するような、そんな物語が夏にはぴったりだと思うのです。

夏に読みたいホラー小説10選

暑い季節になると、なぜか“怖い話”に惹かれるようになります。
ひんやりした空気を想像するだけで、どこか涼しくなるからかもしれません。
でも、それだけではない気がしています。

静かな夜、心がゆるんで、少し感覚が研ぎ澄まされるような時間。
そんなときに読む「少し怖い話」は、ただの娯楽ではなくて、自分の内側に眠っている記憶や感情をそっと揺さぶってくるような力があります。

日常の中に忍び込む“非日常”。
現実と夢の境目が曖昧になるような、静かな興奮。ゾクっとするけれど、どこか心が落ち着く。
そんな読書体験におすすめの10冊を、ご紹介します。

『珈琲怪談』恩田陸

  • 読書難易度:★★☆☆☆
  • ゾクゾク度:★★☆☆☆

あらすじ: 夜のカフェに集まった4人の中年男性が語る、奇妙でどこかリアルな怪談話。 ほんの少しの違和感から始まり、じわじわと心に染み込んでくる怖さが特徴。日常の延長にあるような恐怖が、読後もふとした瞬間によみがえってくる。

静かな怖さが心に残る一冊。個人的には、登場する喫茶店の雰囲気が好みで、気になりました。コーヒーを飲みながら読むと、怪談話の輪に加わっているかのような気分に。

珈琲怪談

タイトル:珈琲怪談

著者:恩田 陸

出版社:幻冬舎

ISBN:978-4-344-04421-0

『撮ってはいけない家』矢樹純

  • 読書難易度:★★☆☆☆
  • ゾクゾク度:★★★★☆

映像制作会社でディレクターとして働く男が、モキュメンタリーの撮影で“撮ってはいけない家”に足を踏み入れてしまう──。 撮影を重ねるうちに次々と不可解な出来事が起こり、カメラに映るはずのないものが写り込んでいく。 徐々に現実と非現実の境界が曖昧になっていく恐怖が、じわじわと迫ってくる物語。

映像が浮かぶような描写が多く、ゾワっとするシーンも多数。
薄気味悪さを感じさせる描写が続く中、謎や伏線も多く散りばめられ、ホラーだけどミステリー要素も楽しめる作品です。

撮ってはいけない家

タイトル:撮ってはいけない家

著者:矢樹 純

出版社:講談社

ISBN:978-4-06-537603-4

『深淵のテレパス』上條一輝

  • 読書難易度:★★★☆☆
  • ゾクゾク度:★★☆☆☆

会社の部下に誘われ、とある大学のオカルト研究会のイベントして以降、怪現象に悩まされる女性が「あしや超常現象調査」の二人組に相談することから物語は始まる。

魅力的な登場人物と丁寧な情景描写で、映像としてイメージしやすいエンタメ性の高いホラーです。話の展開も王道で、ゾクっとする怖さもありつつミステリー要素もあるので、楽しみながら読み進められます。

深淵のテレパス

タイトル:深淵のテレパス

著者:上條 一輝

出版社:東京創元社

ISBN:978-4-488-02908-1

『姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)』京極夏彦

  • 読書難易度:★★★★☆
  • ゾクゾク度:★★★☆☆

昭和20年代の東京。産婦人科で20ヶ月も妊娠し続けているという不可解な事件を調査することになった京極堂(中禅寺秋彦)は、奇怪な目撃情報とともに、“姑獲鳥”という妖怪の影を追うことに。 論理と怪異が交錯する、長編ミステリのはじまりの一冊。

分厚いけれど、語りのリズムに乗ると止まらなくなる。
じっとりと暑い夏の夜に、少し重ための読み応えを求めたい人におすすめ。妖怪というモチーフを通して、人の怖さが浮き彫りになる一冊です。

姑獲鳥の夏

タイトル:姑獲鳥の夏

著者:京極 夏彦

出版社:講談社文庫

ISBN:978-4-06-263887-6

『をんごく』北沢陶(きたざわ・すえ)

  • 読書難易度:★★★☆☆
  • ゾクゾク度:★★★☆☆

地方都市に引っ越してきた夫婦が、築年数不明の古い家を借りることに。しかしその家には“をんごく様”と呼ばれる謎の存在にまつわる風習が残っていた。土地に根ざした静かな恐怖が、じわじわと二人の生活に入り込んでくる…。

“静かなホラー”が好きな人にはたまらない一冊。何が起きるわけでもないのに、読むほどに背中がぞくりとする不穏な空気感。
日常と地続きの怪談だからこそ、読み終わったあともしばらく余韻が残ります。

をんごく

タイトル:をんごく

著者:北沢 陶

出版社:KADOKAWA

ISBN:978-4-04-114265-3

『首無しの如き祟るもの』三津田信三

  • 読書難易度:★★★☆☆
  • ゾクゾク度:★★★★☆

昭和初期、霧深い山間の村を訪れた作家「刀城言耶」が出会う奇怪な事件。首のない遺体、消えた足跡、閉ざされた洋館──現実と幻想のあいだを揺れるように、論理と怪異が交差する。民俗学と本格ミステリが融合した、シリーズ屈指の傑作。

刀城言耶シリーズの3作目。“推理してはいけない”のに、つい考えてしまう…。圧倒的な雰囲気描写と、じわじわ忍び寄る恐怖。論理の上で成立する怪異という不思議な読後感がクセになります。夏の夜にぴったりの一冊です。

首無しの如き祟るもの

タイトル:首無しの如き祟るもの

著者:三津田信三

出版社:講談社文庫

ISBN:978-4-562-04071-1

『残穢(ざんえ)』小野不由美

  • 読書難易度:★★★☆☆
  • ゾクゾク度:★★★★★

作家の〈私〉は、読者から届いた「住んでいる部屋で奇妙な音がする」という手紙をきっかけに、過去の住人や土地の歴史を調べ始める。すると、複数の家や人物に共通する“何か”が浮かび上がってくる──。実話めいた語り口で進む、静かで重い恐怖。

読み進めるうちに、自分の部屋の空気が変わってくるような気がしました
。何も起きていないのに、背中にじわりと汗がにじむ…そんなタイプの怖さです。深夜に読むのはおすすめしません(笑)

残穢

タイトル:残穢

著者:小野 不由美

出版社:新潮文庫

ISBN:978-4-10-124029-9

『怪談小説という名の小説怪談』澤村伊智

  • 読書難易度:★★☆☆☆
  • ゾクゾク度:★★★★☆

小説家である「澤村伊智」が体験した(かもしれない)出来事や、怪談の執筆中に起きた奇妙な話など、“フィクションか現実か”の境目が曖昧な短編が並ぶ一冊。創作と怪異の境界を、ひやりと歩かされるような読後感が残る。

「これは創作?それとも…?」と、何度もページを戻りたくなる本です。自分が今どこにいるのか、一瞬わからなくなるような感覚。
怖さと同時に、物語そのものへの興味もかき立てられる作品でした。

怪談小説という名の小説怪談

タイトル:怪談小説という名の小説怪談

著者:澤村 伊智

出版社:新潮文庫

ISBN:978-4-10-105981-5

『龍が最後に帰る場所』恒川光太郎

  • 読書難易度:★★★☆☆
  • ゾクゾク度:★★★☆☆

不思議な力を持った人々や土地、異界と交差する世界を描いた連作短編集。幻想と現実の境界が曖昧になっていく物語は、どこか懐かしく、しかし背筋がすっと冷えるような怖さを秘めている。表題作では「龍」にまつわる伝承と運命が、ゆっくりと深く心に沁みてくる。

怪異の中にも静けさや切なさがあり、読むたびに心が揺さぶられます。夜の読書にぴったりな、淡く美しい余韻を残してくれる一冊。
ホラーや怪談の枠にとらわれず、幻想文学が好きな人にもおすすめです。

竜が最後に帰る場所

タイトル:竜が最後に帰る場所

著者:恒川 光太郎

出版社:講談社文庫

ISBN:978-4-06-277650-9

『慄く 最恐の書き下ろしアンソロジー』角川ホラー文庫編集部 編

  • 読書難易度:★★★☆☆
  • ゾクゾク度:★★★★☆

実力派作家たちによる書き下ろし怪談・ホラー短編集。異なる作風の“怖さ”が一冊に凝縮されており、日常の隙間にひそむ恐怖から、じわじわと迫る心理的な戦慄まで、幅広い恐怖体験が味わえる。短編ならではのテンポのよさと、どこかに“自分にも起こりそうな気配”を感じさせるリアルさが魅力。

さまざまな恐怖が次々と訪れるので、飽きずに読める反面、気を抜けない読書体験になります。少しずつ読むもよし、一気読みしてゾワゾワを楽しむもよし。アンソロジーの面白さが詰まっています。

慄く 最恐の書き下ろしアンソロジー

タイトル:慄く 最恐の書き下ろしアンソロジー

著者:有栖川 有栖,北沢 陶,背筋,櫛木 理宇,貴志 祐介,恩田 陸

出版社:角川ホラー文庫

ISBN:978-4-04-114078-9

アンソロジー・短編集のすすめ

「ホラーはちょっと苦手かも」「作家さんの名前はあまり知らなくて…」という人にも、アンソロジーや短編集はぴったりの入り口です。

短い物語の中に、それぞれの作家の色がぎゅっと詰まっているので、自分の好みに合った“怖さ”や“語り口”が見つけやすいのも魅力のひとつ。

また、ー話ずつ完結しているので、移動中や隙間時間の読書にもぴったり。ちょっとした空き時間にページをめくるだけで、異世界に迷い込んだような読書体験が待っています。
ホラー初心者さんにも、きっとお気に入りの一編が見つかるはずです。

物語にひたる、夏の夜のひととき

怖い話を読むと、少しだけ感覚が研ぎ澄まされる気がします。
音や匂い、空気の変化に敏感になって、自分の輪郭がはっきりするような――そんな感覚。
怖さの中にある静けさや余韻を、どこか心地よく感じているのかもしれません。

この夏の夜に、ほんの少し背筋を伸ばして、ページの奥にひそむ物語に、そっと触れてみませんか。お風呂あがりに、涼しい風を感じながらページをめくるのが、夏の夜の小さな習慣です。
でも読み終わったあと、電気を消すのにちょっと勇気がいるのは‥ぼくだけじゃないはず(笑)